DXを正しく理解することが成功の近道

DXは変革と共にある!?

問題:「DX」はある言葉が省略された表示ですが、正式な名称は何になるでしょうか?

もしかするとこれを正しく理解している方はそんなに苦労することなくDXができるかも知れません。

正解は、『Digital Transformation』です。
既にお気づきになったかもしれませんが単なるデジタル化ではありません。DXはDigitizationでもDigitalizationでもないのです。

DXにはデジタル化だけでなく「Transformation」、つまり「変化、変形、変質」を共に行うことが必要なのです。言い換えると「変化」を伴わないものであればDXではないということになります。
しかしながら「Transformationは結果論であって、それを目的に行うことはない」ことだけは間違わないように覚えておいて下さい。後ほど解説致します。

そして、DXに取り組んだつもりでも成果につながらなかったケースでよく見られるものは、DXを行ったつもりだったけれども実際はデジタル化止まりで、結果としてDXにはなっていなかったというケースです。

では、DXに「Transformation」が必要な理由とは何故なのでしょうか?

【コンサルのトリビア】Transformationなのに何故”X”?

英語圏では「Trans〜」で始まる単語は、「X-〜」と省略表記されることがあります。
故にTransformationであれば、X-formationと表記されることになります。
この表記の慣習により「Digital Transformation」→「Digital X-formation」→「DX」となっているのです。

では何故「Trans」が「X」なのでしょうか?
「Trans」には「超えて・横切って」という意味を有しています。そして、この「Trans」の同義語に「Cross」があります。ご存じのように「Cross」には「十字架」という意味もあり、その省略表現として「X」が使われます。
このような理由から「Trans」≒「Cross」→「X」と表現されるようになったようです。

DigitizationとDigitalizationとDX

DXのお話しに入る前に、一度”Digitization”と”Digitalization”、そして”DX”の解説をしておきましょう。
ちなみにDigitizationとDigitalization、この二つの言葉は日本語ではどちらも「デジタル化」として表現されますが、英語ではそのニュアンスは異なるのです。

Digitizationとは

Digitizationとは、シンプルに”デジタル化”を意味します。アナログからデジタルに変わったことを思い浮かべてみて下さい。
顕著な例としては、レコード(バイナル)からCD、フィルムカメラからデジタルカメラなどが挙げられます。(CDは既に配信に取って代わられているのですが)

では、会社の業務で考えるとどうなるでしょうか。効率化を目的にしたデジタルツールの導入などはわかりやすいと思います。もしくは、PC利用と考えても良いかも知れません。
例を挙げるとすれば、手書きによる文書作成からワープロを使った文書作成、手紙/電話/FAXから電子メールといったところでしょうか。

Digitalizationとは

では次に、Digitalizationとは何でしょうか? 混同されていることも多いのですが、Digitizationがシンプルに「デジタル化」であるのに対し、Digitalizationはデジタル技術を使って新しい”こと”を生みだすという意味が加わります。

例えば、自動車。デジタル技術を用いることによって、”所有”というスタイルだけでなく、”シェア”というスタイルが加わりました。また、Uberに代表されるようなライドシェアもデジタル技術があってこそです。更に車つながりであれば、akippaやSmart Parkingような新しい駐車サービスの登場もDigitalizationの顕著な例と言えるでしょう。
これらのように顧客体験の変化がDigitalizationでは発生します。

また、Uberの名前がでてきたので、補足をすれば、”出前”が挙げられます。蕎麦屋や中華料理屋では元々サービスとして出前を行っていましたが、この出前を第三者が仲介する配送サービスまで昇華させたことはUberの功績と言えるでしょう。これもDigitalizationの顕著な例です。
ちなみにUberが元々出前をやっている飲食店だったとして、その延長でこのサービスを生みだしたのであれば、これは立派なDX案件だったと思います。

DXとは

では、DXという言葉はどのようにして登場したのでしょうか? 一般的には2004年、当時スウェーデンのウメオ大学に所属していたエリック・ストルターマン教授が提唱したと言われています。(現在はインディアナ大学教授、上級副学部長 ※執筆時)
そして、DXとは「デジタル技術を用いて、生活やビジネスが変容していくこと」を意味します。 
その基本的な概念は「ありとあらゆる物事がデジタル化されると、すべてが根源的に変化する」というものであり、この事を深く理解し、常に”表面的な活動(内容)で終わっていないか?”と自問自答することがDX成功への鍵とも言えますので、忘れないでください。

DXにTransformationが必要な理由

では何故DXは、DigitizationやDigitalizationではなく、Transformationが必要になるのでしょうか?

これまで係わらせて頂いた案件から感じたことになりますが、Transmationは”絶対条件”ではないと思っています。しかしながら、前述のように「ありとあらゆる物事がデジタル化されると、すべてが根源的に変化する」という考えの下、自社のビジネスを情報技術の活用によってトータルによい方向へ変革しようとした結果、Transformationしてしまうのだと自分は考えています。
ですので、Transformationはあくまでも結果論であり、DXはこれを追求するのではなく、やはり企業として今後どうありたいかの”ゴール”を明確にしておくことがとても重要だと考えています。
取り組んでいるうちにDXと言う言葉に踊らされ、技術に酔いしれ、何の為にDXするのかを見失ってしまうこともあるので注意が必要です。

一方で、全くデジタル化にも手つかずだった会社が、突然DXに成功することは100%ありません。なぜなら仕事をするのはシステムでは無く”人”だからです。
業務フローの全てを無人化できるようなことがあれば別ですが、そのようなケースはほとんど無いですし、それはもはやDXではなく、別事業でしょう。
だからこそDXのスタートを切るには、自社がおかれている状況をしっかりと把握し、人材育成や新規人材獲得なども含めた各社のステージごとの対応が必要になるのです。

小手先の変革はDXではない

そしてこれまでのお話しでご理解頂いたと思いますが、DXに「正解」はありません。それ故にDXが難しいものになってしまっている気もします。業界、会社規模、商圏、社内事情など様々な要因で、その会社で求められるDXは異なるからです。
その他にも、何年もかけてDXを行ってきたとすれば、検討していた時点よりもテクノロジーが進化してしまって、DXの効果が薄れてしまうこともあります。

社内でDXという言葉だけが先行し、表面的にしかDXを理解せずに、実行してしまったとしましょう。その先にあるものは残念ながら「失望」だけです。
ただのバズワードで終わってしまい、結果が出なかったことで、更にDXの機会が遠のいてしまいます。

このような失敗は、効率化や経営のスピードアップなど「小手先の変革」だけにとどまってしまっているケースが多く、「業務プロセスにデジタルテクノロジーを取り込むことがDXだ」と勘違いしてしまっていることが原因です。
このような誤解は、正解がないDXという特質も関係しているでしょう。だからこそ先に述べたようにDigitizationやDigitalizationでもDXと思い込んでしまうのです。

DXを正しく理解し、本当のイノベーションについて正しく理解することが、DXを失敗させないためのポイントであり、DXに取り組む人は肝に銘じておく必要があります。